今月17日から、線状降水帯の発生情報として「顕著な大雨に関する情報」の運用が開始されました。
なお、6月29日には、沖縄県で発表されましたが、
顕著な大雨に関する沖縄地方気象情報 第1号2021年06月29日02時49分 沖縄気象台発表沖縄本島地方では、線状降水帯による非常に激しい雨が同じ場所で降り続いています。命に危険が及ぶ土砂災害や洪水による災害発生の危険度が急激に高まっています。
といった形式で発表されるようです。
この情報の背景として、線状降水帯の発生を原因とした大雨災害が社会的に認知されるようになり、その発生情報の周知が求められるようになった、ということがあります。
大雨災害の原因として線状降水帯の存在が知られるようになったのは、2014年の広島での土砂災害(平成26年8月豪雨)あたりからだったのではないでしょうか。
直近では令和2年7月豪雨や平成30年7月豪雨などもあり、この数年で認知度が一気に高まったように感じます。
では、この情報について、簡単にまとめて紹介します。
どんなときに発表される?
まず、顕著な大雨の際にキーワードとして使われる「線状降水帯」ですが、専門家によって定義に違いがあるものの、気象庁では以下のように定義付けを行っています。
「線状降水帯」
次々と発生する発達した雨雲(積乱雲)が列をなした、組織化した積乱雲群によって、数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞することで作り出される、線状に伸びる長さ50~300km程度、幅20~50km程度の強い降水をともなう雨域。
「気象庁が天気予報等で用いる予報用語」より
ちょっと長くて難しい定義なのですが、要素ごと(状態・形状・動向)に分解すると、
状態:発達した雨雲が次々と発生し、積乱雲の列を形成
形状:長さ50~300㎞ × 幅20~50㎞程度の線状に伸びる
動向:数時間にわたってほぼ同じ場所に停滞
といった特徴を持っていることが分かります。
実際の発生事例として、令和2年7月豪雨の際の線状降水帯の様子がこちらです。
7月3日の夜遅くから4日の朝にかけて九州に線状降水帯が発生し、熊本県を中心に発達した雨雲が次々と流れ込んでいる様子が分かります。
線状降水帯を構成する要素の中で特に脅威となるのは、ほぼ同じ場所に停滞することだと思います。
この豪雨の際は、球磨川上空を中心とした狭い範囲に大量の雨を降らせたため、河川の氾濫や橋梁の流出など大きな被害が発生しました。
そして、線状降水帯による大雨で災害発生の危険度が急激に高まっている際に「顕著な大雨に関する情報」が発表されます。
発表条件は以下のとおりで、
「顕著な大雨に関する情報」の発表基準
1. 解析雨量(5kmメッシュ)において前3時間積算降水量が100mm以上の分布域の面積が
500km2以上
2. 1.の形状が線状(長軸・短軸比2.5以上)
3. 1.の領域内の前3時間積算降水量最大値が150mm以上
4. 1.の領域内の土砂キキクル(大雨警報(土砂災害)の危険度分布)において土砂災害警戒情報
の基準を実況で超過(かつ大雨特別警報の土壌雨量指数基準値への到達割合8割以上)
又は洪水キキクル(洪水警報の危険度分布)において警報基準を大きく超過した基準を
実況で超過
※1~4すべての条件を満たすときに発表
こちらも難しい言葉が並んでいますね。
簡単にまとめると、
・一定の強さ以上の雨の領域を持ち、形状が線状
・土砂災害警戒情報や洪水警報の基準を大幅に超過
といった状態にあると言えるでしょう。
また、4つの条件すべてを満たすときに発表されるので、発表時の気象状況は相当切迫したものになっていると考えられます。
おそらく、特別警報が発表されているか、発表直前の状態ではないでしょうか。
有効的な活用法は?
「顕著な大雨に関する情報」が発表されるまでのハードルは高く、実際に発表された際は相当危険な状態になっていることが予想されます。
仮に自分のいる場所で発表された場合、
「大雨で危険なのは見れば分かる」
ような状態なので、「言われなくても」感が大いにあると思います。
この情報が発表された地域で線状降水帯の直下にいる場合は、外に出ることも困難になるので、垂直避難など、その場でできる避難行動が必要となりますが、発表されていない地域でもこの情報は役立ちます。
線状降水帯の特徴として、ほぼ同じ場所に停滞することが挙げられますが、微妙に位置を変化させることもありますし、降水域が拡大することもあります。
平成29年7月九州北部豪雨の際の線状降水帯の様子を例にとって確認してみます。
2017年7月5日の解析雨量で、左側が14時~15時、右側が15時~16時の様子です。
14時台には福岡県の朝倉付近の狭い範囲に集中していた雨雲が、15時台には南北に広がっていることが分かります。
つまり、線状降水帯が発生した地域の隣接地域にも、発達した雨雲が移動してきたり、雨雲の範囲が広がったりする可能性があるため、自身の住んでいる地域に雨が降っていなくても、「顕著な大雨に関する情報」の発表や線状降水帯の動向を注視しておく必要がある、ということになりますね。
そしてもう1つ気にしておきたいのが、河川の増水・はん濫状況です。
河川の増水やはん濫は、基本的には上流から始まったものが、中流・下流へと伝わっていくことが多くなっています。
令和元年台風19号(東日本台風)の際の阿武隈川の様子を例にとって確認してみましょう。
台風19号が伊豆半島に上陸する直前(2019年10月12日18時)の洪水危険度分布の様子です。
18時の時点では、阿武隈川の周辺では「非常に危険」や「極めて危険な状態」を示す紫色の分布が表れていますが、阿武隈川では上流・下流ともに色付けもない、水色の状態となっています。
21時には阿武隈川の上流でオレンジ色に変わっていますが、下流では水色です。
阿武隈川の支流がほとんど濃い紫に変わり、0時には上流が紫色に変わり、下流でも黄色に変わりました。
雨のピークが過ぎる13日の未明には、支流の増水・はん濫が落ち着いたものの、阿武隈川上流でははん濫発生を示す黒に変わり、阿武隈川下流でも紫色です。
6時には支流の増水がほぼ収まった一方で、阿武隈川上流・下流の増水・はん濫状況は続いています。
このように、河川の増水やはん濫は川の支流で始まり、支流の水が本流に合流、本流の下流へと伝わっていく様子が分かるでしょうか。
これを踏まえると、河川の上流で線状降水帯が発生している場合、上流で増えた水が流下し、下流で雨がほとんど降っていなくても増水することが考えられます。
それぞれの地域・状況ごとに分けて分析してみましたが、顕著な大雨に関する情報の活用方法としては、
・発表地域では、垂直避難などのその場でできる避難行動を取る
・発表地域の隣接地域では、線状降水帯の移動・拡大に警戒
・発表地域の下流域では、河川の急な増水・はん濫に警戒
といったことが挙げられるでしょう。
将来的にはどのように変わる?
まだ運用が始まったばかりの「顕著な大雨に関する情報」ですが、気象庁の線状降水帯予測精度向上ワーキンググループにおいて、予測精度向上に向けた取り組みが行われています。
ワーキンググループ第2回(2021年5月24日開催)の資料を踏まえて、将来的にどのように発展していくのか、現在検討されている主なスケジュールを紹介します。
○2021年度
・顕著な大雨に関する気象情報の運用(6月17日~)
・気象レーダーの順次更新(~2027年度)により、雨雲の動きや雨の強さの観測精度を向上
・洋上観測の強化(~2022年度)
・アメダス湿度計の導入(~2024年度)
○2022年度
・半日前からの特別警報級の大雨確率・線状降水帯の発生確率の情報提供
○2025年度
・半日前からの府県単位の危険度情報
○2029年度
・ひまわり10号運用開始
○2030年度
・半日前からの危険度分布に関する情報
特に来年度から、特別警報級の大雨確率などの情報提供が予定されているので、危険度の高い大雨の可能性を事前に伝えられることは重要です。
また、少し先になりますが、気象衛星の後継機・ひまわり10号の運用も予定されているので、さらなる精度の向上が期待できます。
新しい情報を正確に伝えられるように、私としても努力していきたいと思います。
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