自己紹介や経歴でも伝えてきましたが、畑違いの分野から気象キャスターへと転身しました。
子どもの頃に自然科学への興味を持ったことが原点にあると思うのですが、直接的なきっかけやキャスターになるまでを少し振り返ってみたいと思います。
気象予報士の原点
〇 身近な自然
きっかけのうちの1つは、庭です。
私の出身は神奈川県川崎市の臨海部といえるところで、周辺はコンクリートに覆われ、当時も今も自然に触れられる場所が少ない地域です。
そんな地域にありながら、生家の庭は植栽が豊富でした。
ザクロ、ミカン、夏ミカン、キンカン、ツツジ、ユスラウメ、アジサイ、ツバキ、カキ、ピラカンサス、ユキノシタ、カエデ、ブドウ、竹などのほか、家庭菜園でニラやシソ、エンドウ、ツルムラサキなども栽培していました。
こうして書き上げてみると広大な庭っぽいですが、たいてい1本・1株ずつなので全然広くないです(笑)
ただ、面積の割に種類が多い、今思えばとても工夫された庭だったと思います。
ザクロの木に登り、ツツジの蜜を吸い、シソを齧るバッタを捕まえ、ミカンの樹に産み付けられたアゲハチョウの卵を孵しているうちに、自然を身近に感じるようになりました。
〇 小さな庭を出て
そしてもう1つのきっかけが、父親の実家の愛媛・宇和島です。
小学校の頃、夏休みは毎年のように連れて行ってもらっていたのですが、宇和島には庭の小さな自然とは桁違いの自然がありました。
特に印象に残っていたのが、夜空に輝く満点の星空です。
小学校の卒業文集に「将来の夢は天文学者」と書いていたのですが、おそらくこのときに見た星空が影響を与えていたのではないかと思います。
庭という限定的な自然、そして宇和島で見た圧倒的な星空が自然科学への興味を形作っていたのだと思います。
目指したきっかけ
子どもの頃の思い出はあくまでも自然科学に興味を持ったきっかけですが、気象予報士になろうと思ったのはずいぶん後のことです。
〇 なんとなく買う
高校では文系を選択して法学部へと進み、理系から離れていましたが、気休め程度に自然科学の本も読んでいました。
気象予報士試験の概要を知ったのは大学の卒業直前の頃。
ただ、このときですら「そのうち勉強してみたい」と思って購入した参考書を本棚に突っ込んだままにしていました(まだ勉強しない 笑)
〇 長旅のおとも
ようやく参考書のページを開いたのが、それから約2年半後。
総務省に入省後、赴任先の福岡県庁での夏季休暇中、全国各地にいる友人・知人や同期を訪ねる旅行を計画しました。
福岡から北海道へフライトし、新幹線や鉄道で南下していく旅程だったので、道中の暇つぶしのためにNintendo DSを購入。
ただ、ゲームだけでは飽きるので、本も欲しいところ。
あまりたくさん持って行っても重いし、かさばるので、繰り返し読める書籍が理想です。
本棚を見渡したところ、
「あ、気象予報士の参考書があった。ちょうどいい。」
こんなことがきっかけでいいのか、と思いますが、これを契機に自然科学への、特に気象への興味が沸き上がってきたのも事実です。
この旅から5か月後、早くも気象予報士試験を受験するのでした。
気象キャスターになるまで
〇 気象予報士試験
気象予報士試験は年に2回あり、マークシート式の学科試験(一般知識・専門知識)と記述式の実技試験があります。
全ての試験科目は1日で実施されますが、学科試験を両方ともクリアしなければ実技試験は採点されません。
なお、学科試験をクリアすると、1年間(次回と次々回の試験まで)はその合格が有効です。
1回目の受験で、首尾よく両方の学科試験に合格したので、あとは1年間かけて実技試験対策をすればよい状況でしたが、「1年あれば余裕!」と油断してしまい、有効期間中の実技試験合格に失敗…。
一からのスタートになってしまったのですが、これでようやく火が付きました(笑)
心を入れ替えて勉強しているうちに、単に試験に合格するだけでなく、気象予報士として仕事をしたい、という気持ちもふつふつと湧いてきます。
〇 合格後に立ち止まる
2011年3月、5回目の挑戦で気象予報士に合格した直後、外郭団体である財団法人自治体国際化協会(現在一般財団法人)へ異動することになりました。
この異動は海外事務所への将来的な出向を含んでいたため、海外赴任への準備に気持ちを集中させ、受験勉強中に抱いた気持ちはいったん保留です。
ニューヨーク事務所には2年間赴任し、日米姉妹都市交流や自治体の活動支援、アメリカの自治制度の調査などをしてきました。
担当業務とは別に、各人がテーマを設定してレポートを作成するのですが、気象予報士の知識を活かし、アメリカの竜巻災害についてのレポート
「アメリカで発生する竜巻災害とその対応」
http://www.clair.or.jp/j/forum/pub/docs/413.pdf
をまとめています(※一般財団法人自治体国際化協会HPより)。
竜巻被害の多いオクラホマ州で州や町の担当者から話を聞けたので、いい経験になりました。
〇 決意を固める
ニューヨークから帰国した2015年、異動先は消防庁の応急対策室となりました。
自然災害への対応などを担当するセクションなので、おそらく総務省の中で気象に関わる唯一の部署だったのではないでしょうか。
ミーティングの場で今後の気象解説を行ったり、気象庁HPの見方を解説した冊子を作成して配ったりと、気象予報士らしいこともしてきました。
ただ、当然ながら本来の担当業務がある中でやっていたことなので、どうしても片手間になってしまいます。
2015年に関東・東北豪雨が発生した際は、台風18号が日本海へと抜けた後にあれだけの豪雨になるとは思わず、自身の力不足を痛感しました。
もっと気象を勉強したいと思うものの、本省勤務の場合2年程度のサイクルで異動するため、気象に関係する業務に携わっていられる時間は長くありません。
本格的に気象を理解したい気持ちが強まり、気象を生業とする決意を次第に固め、やがて気象キャスターの世界に身を転じます。
目指すキャスター像
現在は全国・ローカルのテレビ局にはたくさんの気象キャスターがいて、解説の方法も様々です。
CGを使ったり、絵を描いたり、装置を使ったりと、見ていて「なるほど!」と思う方ばかりです。
個性的な気象キャスターたちが割拠する中、私が心がけているのは、
「一見関係なさそうに思える分野から天気や気象へ結び付ける」
ということです。
天気や気象は人間の生活や活動に大きくかかわっています。
例えば、選挙の投票日の天気が投票率を左右したり、気温によってアイスクリームやおでんの売り上げが変わったりするほか、季節を詠んだ和歌が生まれたり、戦場の天候の急変で戦況が一変したりと、政治や経済、文化や歴史など、どの分野を探っても天気や気象との関わりが現れてきます。
人が興味を持つ対象は無数にありますが、様々な分野と天気とのつながりを見つけて紹介することで、気象に対する間口が広がり、より関心を持ってもらえるのではないかと思っています。
気象現象は最も身近に起こる自然現象なので、気象に関心を持ってもらえば、自然現象全体への興味も深まるはず。
様々な分野に首を突っ込みつつ、天気と関連しそうな事柄を吟味して紹介しているので、1つでもみなさんの興味に引っかかれば嬉しい限りです。